病気について
高インスリン血性低血糖症とは
原因不明の低血糖でお困りではありませんか?
「熱のないけいれんやぐったりが続く赤ちゃん」「空腹時や運動後に意識が遠のくことがある大人の方」
その症状は、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンが過剰に分泌されることで起こる「高インスリン血性低血糖症」かもしれません。
高インスリン血性低血糖症にはいくつかの種類がありますが、このページでは当会の対象疾患となる①先天性高インスリン血症と②非インスリノーマ性膵原性低血糖症候群(膵島細胞症を含む)について、患者さんとそのご家族のために解説します。
【重要】当会の対象外となる疾患について
高インスリン血性低血糖症の中でも、以下の疾患は原因や治療法が大きく異なるため、当会では対象外としています。これらの病気が疑われる場合は、それぞれの専門医にご相談ください。
- インスリノーマ: 膵臓にインスリンを作り出す「腫瘍」ができる病気です。手術による腫瘍の切除が基本的な治療となります。
- インスリン自己免疫症候群: 自身のインスリンに対する抗体が体内で作られてしまい、抗体とインスリンの結合・解離により血糖が不安定となり、低血糖を引き起こす自己免疫疾患です。
- ダンピング症候群: 胃の切除後、経管栄養時などに、食べた物が急に小腸へ流れ込み、インスリン過剰となることで起こる食後の低血糖です。
- 薬剤性低血糖症: 糖尿病の治療薬(インスリン注射や一部の飲み薬など)が効きすぎることによって起こる低血糖です。
1. 私たちの病気について
① 先天性高インスリン血症【主に新生児・乳児期に発症】
生まれつきインスリン分泌を調節する遺伝子に変異があることなどが原因で、血糖値が低いにもかかわらずインスリンが過剰に分泌され続けてしまう病気です。
生後数か月で自然に治る「一過性」のものと、生涯にわたる治療が必要な「永続性」のものがあります。赤ちゃんのけいれん元気がない、哺乳力低下など、気づきにくい症状で発症することがあるため、早期発見が非常に重要です。
② 非インスリノーマ性膵原性低血糖症候群(NIPHS)【主に成人期に発症】
非常にまれな病気で、「膵島細胞症」を含みます。インスリノーマのような明らかな腫瘍はないものの、膵臓のβ細胞が異常に増えたり大きくなったりして、インスリンを過剰に分泌します。小児期に発症することもあります。
成人では、空腹時や運動後に意識がもうろうとする、冷や汗、動悸などの症状で気づかれることがあります。
2. どんな症状が出るの?
脳はブドウ糖を主なエネルギー源としているため、低血糖は脳に深刻なダメージを与える可能性があります。症状の現れ方は小児と成人で少し異なります。
【赤ちゃん・お子さんの場合】
- 元気がない、ぐったりしている
- 母乳やミルクの飲みが悪い
- けいれん、ひきつけ
- 顔色が悪い、冷や汗をかく
【成人の方の場合】
- 強い空腹感、冷や汗、動悸、手の震え
- 集中力の低下、めまい、意識が遠のく
- (重症の場合)意識消失、けいれん
特に乳幼児期は、治療の遅れが発達の遅れやてんかんなどの後遺症に直結する危険があるため、一刻も早い対応が求められます。
3. どんな治療法があるの?
治療の目標は、血糖値を常に安全な範囲に保ち、低血糖による脳へのダメージを防ぐことです。
食事療法・薬物療法
- ブドウ糖の投与: まずは点滴や経口でブドウ糖を補給し、血糖値を安定させます。
- 食事療法: 消化・吸収がゆっくりなコーンスターチを利用したり、食事の回数を増やしたりして、血糖値の急激な変動を防ぎます。
- 薬物療法:
- ジアゾキシド: インスリンの分泌を抑える飲み薬です。
- オクトレオチド: ジアゾキシドの効果が不十分な場合に使われる注射薬です。
- グルカゴン: 血糖値を上げるホルモンで、緊急時に注射で使われることがあります。
外科的治療
薬物療法で血糖コントロールが難しい重症の場合、手術が検討されます。
- 局所性の場合: 異常な細胞が膵臓の一部に固まっているタイプです。ABCC8、KCNJ11遺伝子の異常をお持ちでお父さんからお子さんに変異が伝わった際に局所性となることがあります。その部分を切除することで、寛解が期待できます。
- びまん性の場合: 異常な細胞が膵臓全体に広がっているタイプです。膵臓を広範囲に切除すると、将来的にはインスリン治療が必要な糖尿病になる可能性が高くなります。
4. どのくらいの人がこの病気になるの?
先天性高インスリン血症はまれな病気で、一過性の患者さんは約17,000出生に1人、永続性の患者さんは約35,400出生に1人の割合で発症すると報告されています。成人に発症する非インスリノーマ性膵原性低血糖症候群(NIPHS)はさらにまれな疾患です。
5. どんな医療制度があるの?
この病気と向き合う上で、医療制度について知っておくことは非常に重要です。
小児期の医療費助成
「先天性高インスリン血症」は、国の「小児慢性特定疾病」の対象疾患です。 これにより、認定された患者さんは原則18歳未満(条件を満たせば20歳未満まで延長可)まで、医療費の助成を受けることができます。
成人移行における課題(移行期医療、移行支援の問題)
小児慢性特定疾病の助成は、20歳に達すると終了します。そのため、小児期から治療を続けている患者さんは、成人になると医療費が増加する問題に直面します。これは「移行期医療」における大きな課題であり、患者さんとご家族にとって経済的にも精神的にも重い負担となっています。 この問題の解決に向けて、当会は治療薬、血糖関連物品などに関する保険適用拡大等を求める活動を行っています。
おわりに
「先天性高インスリン血症」と「非インスリノーマ性膵原性低血糖症候群」は、適切な診断と治療によって、重篤な合併症を防ぐことが可能な病気です。お子さんの様子がおかしい、ご自身で原因不明の低血糖症状に悩んでいるなど、気になることがあれば、ためらわずに小児科や内分泌内科、糖尿病内科の専門医に相談してください。
(監修:大阪市立総合医療センター 小児代謝内分泌・腎臓内科 樋口 真司 先生)
関連サイト
- 先天性高インスリン血症治療ガイドライン(日本小児内分泌学会)
- 小児慢性特定疾病情報センター
- 下記のページで小児慢性特定疾病における高インスリン血性低血糖症の分類と概要の情報が提供されています。
- 内分泌疾患の疾患一覧 – 34. 高インスリン血性低血糖症
- 小児期発症の希少難治性肝胆膵疾患の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する調査研究
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業の調査研究対象に「先天性高インスリン血症」が採択され、下記の取り組みが実施されています。
- 先天性高インスリン血症診療ガイドラインの改定
- 先天性高インスリン血症の重症度分類の策定
- 日本小児内分泌学会と連携したレジストリ研究の実施
- 先天性高インスリン血症の遺伝子型-表現型の解明
- 膵島細胞症患者の会の支援
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業の調査研究対象に「先天性高インスリン血症」が採択され、下記の取り組みが実施されています。
- Congenital Hyperinsulinism International (CHI)
- 先天性高インスリン血症を対象とした国際的な患者団体
【免責事項】
このページは専門医監修のもと、一般的な情報提供を目的として公開しています。医学的なアドバイスや診断に代わるものではありません。病状や治療については、必ず医師や専門家にご相談ください。